カンキツ産地見学:静岡県沼津市


キヨタのホームページをご覧いただき有難うございます。

普段は旬の青果物について更新していますが、今回は縁あって静岡県沼津市西浦立保にありますカンキツ園「シトラスファーム伊藤」さんへ産地見学に行ってまいりましたので、そのレポートをお伝えいたします。

 

【はじめに】

国産のカンキツは馴染み深い温州みかんをはじめ、デコポンや清見などの中晩生(ちゅうばんせい)カンキツ、日向夏や八朔など種類も様々。産地も見学した静岡県をはじめ、愛媛県、長崎県、熊本県、和歌山県など広範囲にわたっています。近年ではマルチ栽培や高糖度を謳った品種など各産地でのブランド"カンキツ"も多く見るようになりました。

 

 

一方で、カンキツ類の栽培面積は平成元年に比べ当時の約半分近くまで減少しており(農林水産省統計部『耕地及び作付面積統計』より)、主たる原因は他の作物と同様、生産者の高齢化や後継者不足、新規就農者の減少などかと思われます。また、他の果樹に比べ園地に傾斜地が多く、農作業の機械化が難しいことも一因しているのではないでしょうか。


 

 そんな中、伺った「シトラスファーム伊藤」の園主、伊藤さんは地元外の出身であり、50代後半で新規就農に挑まれた方。なぜ新規就農をしたのか、また、カンキツ栽培を選んだ理由など、伺う前から「普通ではない農家さん」のイメージを抱きつつ、都内からおよそ2時間弱で沼津市西浦へ。

 

見学当日は写真のとおり見事な快晴に!けれど風は冷たく、防寒具に身をすくめながら園地近くの港に立ち寄ってみると、富士山の綺麗な姿を眺めることが出来ました。

 

伊藤さんの元を尋ねると、園地見学の前にまずは育てられたカンキツ類を試食する事に。

擦れなどで販売できない見た目との事ですが、ツヤツヤと色よい果物を目の前にするとウキウキとした気持ちに。

新規就農に至るまでのお話を聞きながら、今回は「はるみ」、「津の輝(つのかがやき)」、「麗紅(れいこう)」、「紅ばえ」の4品種を試食しました。

 



はるみ

(清見×マーコット)

 

交配の組み合わせはデコポンと同じですがポンカンの種類が異なります。見た目はデコポンよりもなめらかな表面。

 

皮は手で簡単にむくことが出来ます。食感はじょうのう膜(内房の袋)が薄く、果肉はみっちりと詰まってぷりっとした食感です。

収穫から若干日数が経っていたため、酸抜けしている途中。甘みを強く感じますがしっかりとした酸味もあるので、甘さ一辺倒になりがちな温州みかんとは違い、酸味を好む人にも勧められるカンキツです。

 

津の輝(つのかがやき)

(清見・興津早生×アンコール)

みかんとオレンジをかけあわせたタンゴールの一種。

見た目は青島などの晩生みかんに近い印象です。

 

皮もみかんのように剥きやすいです。薄いじょうのう膜と水分の多い果肉から、食感はとてもジューシーです。充分な甘味と控えめな酸味のバランスが良く、食感と相まって試食した他の3品種よりもクセがなく、食べやすい印象でした。

 

麗江(れいこう)

((清見×アンコール)×マーコット)

せとかと同じ交配のカンキツです。見た目はせとかよりもややゴツゴツとした印象です。

 

外皮が薄く手で簡単に剥くことが可能。じょうのう膜は薄め。

果肉の色や香りはオレンジに近く、味わいは濃厚です。酸味も程よくありますが、前述の2品種に比べると甘味が勝る印象です。水分も豊富なので食べごたえのあるカンキツではないでしょうか。

紅ばえ

((温州みかん×オレンジ)×マーコット)

皮のオレンジ色が強く、外皮は他の晩生種に似た印象。

 

 

若干外皮の剥き難さがあるものの、気にならない程度です。中のじょうのう膜は薄く、果肉もぎゅっと詰まっていい食感ですが、種が入っている房が多いです。

甘みが強く感じられ酸味も程よく残っています。みかん、というよりもオレンジの風味が感じられる食味です。



園主の伊藤正樹さんは東京出身。元々、農業や牧畜をやりたいと夢見ていたこともありましたが、東京の大学を卒業後は商社に勤務。

世界中を飛び回る海外勤務の中で、南アフリカでの農園経営なども構想しましたがご家族の病気治療のため帰国する事に。ご家族との死別を期に、農業の夢を追うことを決断。早期退職ののち、沼津市や県に新規就農を相談。地元農家さんに弟子入りされ、2006年から園地を借りてカンキツ栽培を始められました。現在は借地だけでなく所有地の園地も保有。けれどいずれの園地も急傾斜地や園地同士が離れていたりと、苦難も多かったそう。その都度試行錯誤しながら、現在ははるみをはじめ約10品種のカンキツを栽培していらっしゃいます。

 

そんな伊藤さんの園地も見学させていただきました。収穫を控えた果実には袋がけが。果実の風や葉による擦れを防ぐのと同時に、鳥獣害の予防にもなるそうです。(写真では分かりにくいですが園地には頭の高さぐらいに鳥が入ってこれないようテグスも張られています)

ひとつ袋を外していただくと、陽の光を目一杯浴びて色づく果実。何度見ても果物の素敵な表情だなと思います。私が鳥なら一目散に啄みに行くことでしょう。それぐらいに魅力的なカンキツなんです。

園内風景

貯蔵庫には寿太郎みかん

収穫を控えた果実

寿太郎みかん

中はしっかり色付いています

なかなかの傾斜です

風の擦れでこんな傷に…

もはや段々畑の高低差


現在農協への出荷のほか、宅配便を介しての直接販売も行っている伊藤さん。

先述の獣害防除をはじめ、果実一つ一つへの袋掛けや商品の選別をする際などは、お客様の顔が思い浮かび、「自分のカンキツで喜んで欲しい」と、商品へのこだわりが強くなるとの事。僅かな擦れなども見逃しません。成品率の向上はもちろん、加工品や貯蔵技術、販路拡大によってより多くの品物を出荷したいとの事。まだまだ先を夢見るその姿に、より多くの人に伊藤さんのカンキツを楽しんでもらいたいと感じました。

 


 いまや生産するだけが「農業」ではありません。自分の作った農作物をどんな人に買ってもらいたいか、どのように販売するか、どのように告知するか…セルフプロデュース、という横文字が合っているかは分かりませんが、個人の農家さんにおいては、未来に対する明確な指針、自然や需要に対する柔軟性、消費の新規開拓など生産技術以外の側面がとても重要なのではないかなと感じました。

 

「この人が作ったこの作物が食べたい。」ナンバーワンは入れ替わりますが、オンリーワンはなかなか変わらないもの。オンリーワンを知ってもらうには何をするのがいいでしょうか。味を売りにするのか、栽培方法?選別方法?きっと農家さんひとりひとりの魅力が詰まったものになると思います。その魅力が【絶対的な商品価値】であり、市場などにおける【相対的な商品価値】とはまた違ったものではないでしょうか。

 

その両方の価値を判別できる【真摯な消費者・販売者】になれるよう、まだ知らない産地や商品を学んでいきたいと思う1日でした。